研究について

精神科領域における症状の重症度評価は患者さんの自覚症状や評価者の主観的判断に基づきます。時に客観性に乏しい重症度評価は、日常臨床での治療導入の決定や治療効果判定、あるいは治験の大きな障壁となっています。一方で精神医学では気分、集中力、倦怠感といった患者の主観的体験や、他者が観察可能な気分の表出、動作速度などを症状の中心と捉えます。例えばうつ病の患者さんは、表情が暗くなり、声は弱々しく、イントネーションが平板化します。思考は緩慢になり、応答に時間がかかり、発言内容は悲観的なものとなります。このように客観性に乏しい精神症状を、最新のテクノロジーを利用して定量化・可視化することができれば、重症度診断が客観性をもったものになり、治療や治験の質の改善につながります。

本プロジェクトは、日本医療研究開発機構(AMED)の「ICTを活用した診療支援技術研究開発プロジェクト」として採択され、「表情・音声・日常生活活動の定量化から精神症状の客観的評価をリアルタイムで届けるデバイスの開発」を目指しています。研究室や学部、大学の垣根を超え、さらに多くの参画企業の協力を得て、2015年11月に始動しました。従来のカテゴリー診断、DSM-5の新しいディメンジョン診断、さらには米国NIMH主導のresearch domain criteria(RDoC)など、今なお精神科診断が混沌とする状況の中、あるいは精神科領域の治験が困難を極めており一部の製薬企業が精神科領域から撤退を表明している状況の中、デバイスの開発を通じた未来医療の実現のみならず、Computational Psychiatryという新しいアプローチを用いて、精神医学に診断、治療の新しい風を吹き込みたいと考えています。